「運び屋 円十郎」三本雅彦(著)のあらすじと登場人物をネタバレで書きます。
「運び屋 円十郎」は江戸時代の話ですが、時代物としては「その言葉なに!?」という、普段聞かないような言葉が少ないので読みやすく、「サクサク」読み進めていけました。
「時代物はちょっと」というような方や、時代物を読んだことがない方におすすめできる作品です。
お越しいただきありがとうございます。
よろしかったら、最後までお付き合いください。
運び屋円十郎
登場人物
● 柳瀬 円十郎(やなせ えんじゅうろう)
安政5年9月(1858年)の時点で18歳。
運び屋。最上位の「松ランク」の仕事ができる。
運び屋の仕事にはランクがあって「松ランク」の仕事がいちばん難しく報酬が高い。
「松ランク」の下に「竹ランク」「梅ランク」がある。
● 柳瀬 半兵衛(やなせ はんべえ)
円十郎の父親。
元運び屋。
柳雪流躰術(りゅうせつりゅうたいじゅつ)で起業したが流行に乗れず失敗した。
柳雪流躰術とは?
「柳に雪、柳に風」が極意で、万物の力に逆らうのではなく受け入れて活かす躰術。
己の肉体を自在に操り、一般人には不可解な動きをする技を得意とする武術です。
● 日出助(ひですけ)
見た目は七福神の恵比寿。
船宿「あけぼの」の主人で、江戸の闇社会では有名人。
● 青木 真介(あおき しんすけ)
円十郎に団子をそっとくれる、水戸藩の人。
「志」と「理緒」が大好き。
● 理緒(りお)
白山権現の近くにある茶屋「くくり屋」の看板娘で、引取屋の元締め。
円十郎や真介とは顔なじみ。
● 兵庫(ひょうご)
引取屋で理緒の部下。
デカくて強い。
あらすじ
円十郎が運んだ荷物が原因で、真介が脱藩してしまいました。
理緒は円十郎に真介への手紙を届けてくれるよう頼みます。
円十郎は真介を鎌倉の寺で見つけますが、引取屋の兵庫がやってきて戦闘になりました。
兵庫は鬼強で円十郎と真介では歯が立たず、寺の人に言いつけて難を逃れます。
兵庫は騒ぎを大きくしたくないので、その場から立ち去りました。
真介に別れを告げ、理緒のところへ報告にやってきた円十郎は、理緒が兵庫の上司で引取屋の元締めだと知ります。
円十郎は、報告に言った「あけぼの」で、日出助から「運び屋あっての引取屋で、引取屋あっての運び屋」だと教えられました。
感想
「理緒さん、引取屋かーいっ!?」というサプライズが良かったです。
あと、円十郎が荷物を運ぶシーンや、戦いのシーンがリアルに簡潔に書かれていて読みやすく、それでいて迫力もあって楽しめました。
百両の荷物
登場人物
● 円十郎
兵庫LOVE。夢に出てくる。でも、兵庫に勝てずに殺される夢ばかり。
今章の円十郎は、突きまくられて、疲れまくり。
● お葉(およう)
「あけぼの」の女中さん。氷の微笑。たぶんツンデレ。きっとツンデレ。
氷の微笑で円十郎の心をチクチクと突きまくる。
● 沖田 宗次郎(おきた そうじろう)
天然理心流の使い手。円十郎を木刀でボロクソに突きまくる。
● 理緒
ひょうひょうと円十郎の前に現れて、チクチクと円十郎の心を突きまくる。
あらすじ
円十郎は引っ越しをします。
引っ越しをお葉が手伝ってくれました。
円十郎が荷物を届けると、浪人が数人やって来て「こいつを倒せば百両だ!」と言います。
円十郎は浪人を返り討ちにして荷物をバッチリ届けますが、謎だらけの依頼に困惑しました。
兵庫に勝つイメージゼロな円十郎は、強くなるために通えそうな剣術道場を探します。
ですが、自分にフィットする道場が見つかりません。
そんなとき、手紙を届けた先の剣術道場で沖田宗次郎にボコボコにされます。
ボコボコにされて長屋に帰ると商売敵の理緒がいて、「引っ越しとか無駄なことをするな」と遠まわしに言い、普通に団子を置いて帰っていきました。
感想
お葉さんの、普段は冷たい態度なんだけど、ホントは温かいツンデレなところ。
理緒さんの、普段はのほほんと温かいイメージなんだけど、「元締め、こわー」でいざとなったら残忍になりそうな感じなところ。
この章では、そんな二人の対比みたいなところが良かったです。
あと、新選組が出てきてビックリしました。
幽世(かくりょ)の蛇
登場人物
● 円十郎
初めて運び屋の仕事を失敗してしまう。
● ヒメ(猫)
円十郎に魚を貢がせる黒猫。焼き魚の小骨は自分でとらない。
● 才蔵(さいぞう)
船頭。「あけぼの」で船の扱いが一番うまい。猪牙舟レーサー。
● お葉
この章でも、やっぱりツンデレ。
●土方 歳三(ひじかた としぞう)
石田散薬という打ち身や切り傷に効く薬を売っている。
沖田宗次郎の7つ年上。
● 蝮(まむし)
カーフキックで円十郎のふくらはぎと心を引きちぎった。
カーフキックとは?
ふくらはぎを狙ったローキックです。
カーフキックが効果的な理由は、ふくらはぎは筋肉量が少なく、重要な神経が通っていて痛みを感じやすいからです。
あらすじ
円十郎が住んでいる部屋の扉をカリカリと引っかく黒猫が現れます。
エサをやるまでカリカリうるさいので、円十郎は黒猫のヒメにエサをやるようになりました。
運び屋の仕事が入った円十郎は、稽古中にケガをすると仕事ができないので、稽古を断るために天然理心流試衛館へ行きます。
そこで、沖田宗次郎と土方歳三に会い、稽古が出来ないことを伝えると、沖田宗次郎はがっかりし、土方歳三は「宗次郎が手加減しないからだ」とからかいました。
勤務中、円十郎はカーフキックを喰らい悶絶。荷物を奪われて運びの仕事を失敗します。
助けてくれたのが、土方歳三と才蔵でした。土方歳三は「あけぼの」が誇るもう一人の「松ランク」の運び屋でした。
カーフキックの傷が癒えた円十郎が、土方歳三と試衛館でカーフキックの攻略法を考えていると、才蔵が「半兵衛が血を吐いた」と円十郎を呼びに来ました。
半兵衛が住む長屋へ来た円十郎は、半兵衛の病気が「労咳」だと医者から聞かされました。
労咳とは?
結核のことです。
今は薬やワクチンのおかげで不治の病ではありません。
ですが、円十郎の生きている時代では不治の病です。
感想
円十郎にはまったく懐かないヒメが沖田宗次郎にはメロメロで、円十郎のはらわた煮えくり返りなのがおもしろかったです。
また、円十郎がカーフキックで失神K.O.されるシーンが良かったです。思わず、「どこの格闘技団体やねん」とツッコミを入れてしまいました。
わかれ路
登場人物
円十郎
ヒメが半兵衛にもメロメロなのが理解できないし、納得がいかない。
半兵衛
円十郎のピンチにさっそうとやってきて蝮と戦う。
青木 真介
鎌倉から京都へ行き、江戸に戻ってきていた。
理緒にめっちゃ会いたい。
理緒
青木真介に会いたいが、会えない。
仕事か、恋か。目下それが悩みの種。
兵庫
錫杖の達人。というか、オンとオフを切り替える達人。
仕事以外では、円十郎にとてもフレンドリー。
あらすじ
円十郎は半兵衛から「柳雪流小太刀術『雪垂』」を伝授してもらいます。
半兵衛が見せてくれた「雪垂」は、雪の重さに逆らわず、雪に撓る柳の枝の如く動く技で、円十郎は「雪垂」の動きを目に焼き付けました。
円十郎は青木真介を見かけますが、一瞬だったので人違いかと思いました。そのことをお葉に話すと、お葉が青木真介を見つけてくれました。
円十郎は青木真介に会いに行き、二人はいろいろと話しをします。
円十郎は青木真介に理緒へ言葉を運ぶ仕事を依頼されました。
円十郎が理緒のところへ行くと、青木真介のところへ団子を届けてくれと依頼され、円十郎は真介&理緒の間を行ったり来たりすることになりました。
円十郎はある松ランクの仕事で、兵庫が置いた荷物をピックアップして、そのあと届けることになります。
円十郎は届ける途中で、幕府の隠密「幽世」に狙われ、兵庫と共闘しました。
荷物を届けた円十郎は、追ってきた「幽世」の蝮と対峙します。
才蔵を人質に取られ、十分な動きができない円十郎を助けたのは、ヒメと半兵衛でした。
病をハンデに戦う半兵衛は血を吐き、その隙を狙った蝮に刺されてしまいました。
感想
青木真介と理緒の関係がいじらしい。
円十郎とお葉の関係よりも、円十郎とヒメの関係の方がいじらしい(笑)
そんな章でした。
手のぬくもり
登場人物
円十郎
円十郎と書いて、朴念仁(ボクネンジン)と読みます。
お葉
「物語の最後に飛んで来た苦無から円十郎をかばって死ぬかも?」と思っていました。
なので、「京都に新婚旅行へ行けてよかったね。お幸せに!」と言いたい。
理緒
弓矢も得意とはビックリ。
さすが元締め。何でも超人です。
正直、「理緒さんの近くにいれば、真介さん逃げなくても大丈夫じゃね?」とか思うんですけど。
青木 真介
「理緒さんのように、勝手に稼いでくれて、勝手に守ってくれる女子を手放すのはもったいないぞ!」と説教したい。
日出助&土方歳三
ボクネンジン円十郎をもっといじめてやればよかったのに。
ヒメ
もはや猫又。円十郎の守護神。
あらすじ
半兵衛が亡くなります。
悲しくてやりきれない円十郎を日出助とヒメが慰めてくれました。
お葉が行方不明になり、円十郎は理緒に捜索を依頼します。
嫌々引き受けた理緒は、お葉がいる浅草の寺を見つけてくれました。
円十郎はお葉に会いに行き、お葉は「幽世」に育てられた「幽世」のメンバーであることを知らされます。
円十郎は青木真介をおとりに使い、蝮をおびき出しました。
円十郎は、蝮の口車にダマされ青木真介とお葉を人質に取られます。
そんな円十郎のピンチを救ったのは理緒でした。
円十郎は蝮を倒し、半兵衛の敵を討ちました。
「幽世」のメンバーを殺した円十郎は幕府に狙われるので江戸にはいられません。
日出助&土方歳三のはからいとプッシュで、円十郎とお葉は夫婦といつわり京都へ行くことになりました。
感想
円十郎とお葉の関係や、理緒と真介の関係が良いです。
がしかし、それよりも良い関係なのが、円十郎と真介の男の友情でした。
さらにその上、松ランクの関係なのが、円十郎と理緒の関係。
この二人の絶妙な関係性が「運び屋 円十郎」をおもしろくしたのだと思います。
そんな、円十郎と理緒がタッグを組んでピンチを切り抜けるとことがおもしろかった章でした。
また、章の最後に、円十郎が「金だ。金さえあれば何とかなる」と言って、お葉を一人で行かせようとします。
そんなボクネンジンの円十郎に、日出助&土方歳三がタッグを組んで「金じゃねーんだよ」と、円十郎に呆れてさとすところもおもしろかったです。
この章にかぎってではありませんが、著者の三本雅彦さんは人と人との微妙な距離を描くのがとてつもなくお上手だと思いました。
さいごに
すべてがハッピーエンドとまではいきませんが、すべての人間がきれいに納まるところへ納まった形で物語が終わりました。なので、読み終わってからも清々しいです。
特に良かったのは、半兵衛が蝮に殺されて、円十郎が半兵衛に伝授された「雪垂」を使って蝮を倒すという、少年漫画のようなところでした。
土方歳三や沖田総司が出てきたのは賛否両論あると思いますが、個人的には良かったところの一つです。「半兵衛が労咳を患いますが、沖田総司も労咳に苦しめられるのよね」とか考えたりしました。
「運び屋 円十郎」は、文章も読みやすく、読んでいて気持ちがいいし、敵がいて仲間がいてライバルがいての王道のストーリーでおもしろかったです。
おすすめです。ぜひ。
以上です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。