いやしかし、高校生の江利子さんは男前でしたよね。
「必ず約束は守る!」という信義に厚いところが男前でしたし、手段を選ばず目的だけを見てゴールへと突っ走る姿が読んでいて爽快感がありました。
また、かなり長丁場の内容でしたが、すいすいと読み進めることもでき、気持ちよく読み進めることができました。
ただ、「架空犯」よりも「白鳥とコウモリ」派かな、という感じです。
理由は「白鳥とコウモリ」の方が「おぉぉ、なるほど。そう来たか」という「とても考えられているわー」が多かったような記憶があるからです。
「記憶があるからです」とか言ってますが「白鳥とコウモリ」のあらすじをほとんど覚えていないんですけどね(笑)

お越しいただきありがとうございます
お時間ございましたら、お付き合いください
表紙どこ?・映画・前作「白鳥とコウモリ」つながり・美咲の父親は?

表紙どこ?
「架空犯」の表紙は大阪市北区にあるホテルです。
2022年5月に一度閉店したようですが、2025年の今、リニューアルして営業しているようです。
「兎我野町 プリンス」で検索すると詳しいことがわかります。
ちなみに「兎我野町」は「とがのちょう」です。
前作「白鳥とコウモリ」つながり
「架空犯」の前作とされる「白鳥とコウモリ」とのつながりはありません。なので、どちらから読んでも問題なし。
問題なし、とか言ってますけど「白鳥とコウモリ」の内容をほぼほぼ憶えておりません。「白鳥とコウモリ」は、わたしの推理小説人生の中でベスト5に入るくらい面白かった記憶があるのですが。
「架空犯」の主役が五代努という刑事さんなんですけど、「初めまして、五代さん」的な感じのわたくし。「白鳥とコウモリ」の五代努がどんな人柄だったのかも記憶にございません。
記憶がポンコツだと得した気分がてんこ盛りの推理小説人生です(笑)
映画
2025年4月の今、「架空犯」の映画情報はありません。
「架空犯」を映画化するなら、主役の五代努さんは、西島秀俊さんか上川隆也さんに演じていただきたい。
はじめ「鈴木亮平さんだな」とか思ったんですけど背が高すぎる。わたしの中の五代努さんに背が高いイメージがないのですよね。
わたしの五代努さんは、175センチ、中肉中背です。
わたしの五代努さん、ってなんだ(笑)
美咲の父親は?
今西美咲の父親は山尾陽介だと思います。
1986年12月15日が今西美咲の誕生日ですが、山尾陽介が産婦人科に問い合わせたところ、この日に誕生するには、3月中の性行為が必要だとわかりました。
深水江利子が山尾陽介に「約束を果たす!」と電話をしてきたのが卒業式の日の夜のこと。
山尾陽介と深水江利子が関係を持ったのは卒業式の日以降ですが「私たちが関係を持った日は卒業式の次の日だ!」というような、はっきりとした日付の表記は無かったと思います。
ほとんどの高校の卒業式は3月1日ということで、山尾陽介も高校を卒業して時間はあったと思いますし、深水江利子は「思い立ったら速攻」な性格だと思うので、山尾陽介と深水江利子が関係を持ったのは遅くても3月の中旬まででしょう。
という理由から、今西美咲の父親は山尾陽介だと思います。
どうでしょうか?
ただ、深水江利子は山尾陽介の子供をなんで生んだの? ってことになりませんか。
深水江利子が妊娠に気がつかずに堕胎期間を過ぎていたとは考えにくい、と物語の中でいわれていたので、産む気があったのは確かなんですけど、山尾陽介の子供を産んだ理由がわかりません。
藤堂康幸スキスキな江利子さんが「わたしとの約束を守った男気に感心したから山尾陽介の子供を産んだのだ」ってのあります?
もうそうなると考えられるのは、母性が輝いたから出産した、って理由しか思いつきません。
なので、深水江利子が今西美咲を出産した理由は母性です。
ただこの理由もちょっと弱い気がします。
かなりねじ曲げた極端な話、3月31日に山尾陽介と深水江利子が関係を持って、4月1日に深水江利子が藤堂康幸に連絡をして、その日のうちに藤堂康幸と深水江利子が関係を持ったとしたら。
そして、何らかの理由で出産した日がずれた、とかになったら、もう今西美咲はどっちの子供かわかりませんよね? みたいな(笑)
なんでねじ曲げたかというと、今西美咲が藤堂康幸の子供だとすると深水江利子が出産した理由に納得できるからです。
この場合、深水江利子は愛している藤堂康幸の子だから出産した。
そして、藤堂康幸に黙って出産したのは愛する藤堂康幸に迷惑をかけたくなかったから、という感じになりません? 実際、藤堂康幸もこの説を信じていましたし。
今西美咲を生んだ理由としてはこっちの方が納得ができます。
けど、これは無いな(笑)
登場人物

五代努(ごだいつとむ)
主役の巡査部長。前作の「白鳥とコウモリ」にも出演されていたようですが、記憶にございません。
ちなみに「白鳥とコウモリ」の事件は「清洲橋事件(きよすばしじけん)」と呼ばれています。
山尾陽介(やまおようすけ)
五代努と組むことになった所轄の生活安全課の警部補。57歳のスリム体型。
スタート地点からチラチラとつじつまが合わないような言動や行動をするので「おまえ、なんかやっているだろ」というのが見え見えの人物。
個人的に、もう少しさりげないチラチラが好きです。
藤堂康幸(とうどうやすゆき)
初っ端から亡くなっている議員さん。
政治家一族のサラブレットで、区議会議員から都議会議員へジャンプアップ。都議会議員さん5期目の65歳です。
65歳だけど、がっちり体型の動けるジジイらしくて「藤堂康幸氏は簡単には殺られない」的なニュアンスが多々登場します。
二人の娘のことを考え、その身を焦がすイフリートジジイでもありました。
藤堂江利子(とうどうえりこ)
事件の起源。旧姓、深水江利子。
この方も初っ端から亡くなっている元女優で「双葉江利子(ふたばえりこ)」と名乗って芸能活動をしていたのは30年以上前のこと。
航空機事故で両親を早くに亡くしているからか、高校生の頃から考え方や立ち居振る舞いが大人っぽく、行動力もありありだった女性。
高校時代から男前な性格で「借りた借りは返す」という「一諾千金(いちだくせんきん)」的な性格のおかげで、巡り巡って自分の首を絞めることになった。
今西美咲(いまにしみさき)
東都百貨店の外商員。五代さんいわく、整った顔立ちの美人さん。
寺内博子(てらうちひろこ)おすすめ
深水江利子や山尾陽介の同級生。
7年前に同窓会があり幹事をしていたのが寺内博子さんだったので、五代が捜査のため自宅へとお邪魔した。
息子の名前はタカヒロで、旦那は大学の先生で婿養子。旦那の給料は大したことがないらしい。
主な収入源は家賃収入で、毎日の日課は家庭菜園のお世話。五代が会いに行ったとき、ちょうど野菜のお世話の真っ最中でした。
五代を宅内に案内してお茶を勧め、野良着から着替えてバッチリお化粧を整えて登場してきた可愛らしい人物。
榎並香織(えなみかおり)
藤堂さんちの一人娘さん。妊娠中。
夫の名前は「榎並健人(えなみけんと)」医療法人を運営する榎並グループの御曹司で榎並総合病院の副院長。
さすがの上級国民カップルで、お住まいのリビングダイニングは30畳以上だ!
桜川(さくらかわ)&筒井(つつい)
五代努の上司。
刑事ものでよくある管理職上司が主役の邪魔をする、ということはなく、協力的なお二人です。
お二人と五代のやり取りは面白い。筒井のキャラが素敵なので、特に筒井と五代のやり取りは読んでいて楽しかったです。
あらすじ

自宅で藤堂康幸が焼死で発見され、妻の江利子も浴室で首を吊った状態で発見されます。
この件を捜査するのが五代努と山尾陽介です。
藤堂康幸は都議会議員さんで、発見当初は事件か自殺かもわからない状態でした。
五代努と山尾陽介が捜査を進めていると、現場から紛失していた藤堂康幸のタブレットを武器に、犯人から三億円の要求があったり、三億円が三千万円にディスカウントされたりします。
そんな中、藤堂康幸が使っていたタブレットの電源が警察署内で入っていたことがわかります。
警視庁の人間だけを集めた会議で「なんで警察署内で電源がオンになんねん!?」「所轄の誰かヤバくね?」みたいな空気になるのですが、この頃から山尾陽介が「お前なんかやってんな」的な感じになっていきます。
まぁ、読んでいるこっちは、だいぶ前から「お前なんかやってんな」的な感じだったのですけども。
怪しげな山尾陽介と一緒に捜査をしたくない五代努はインフルエンザで自宅休養中とウソをつき、山尾陽介を遠ざけて一人で捜査を始めます。
五代努が捜査を進めると、知っている人物のつながりがいろいろと見えてきて、山尾陽介や藤堂江利子の同級生で、永間和彦(ながまかずひこ)という人物が高校時代に藤堂江利子と交際していたことがわかります。
永間和彦は東大現役合格間違いなし、と言われた秀才で山尾陽介の親友でしたが、1986年5月30日に自宅のマンションから飛び降り自殺をしていました。
約40年前の自殺のことなんて詳しい記録が残っていません。
警察官で永間和彦の親友でもあった、なんかやっている感まる出しの山尾陽介に話が聞けると一番良いのですが、「それが出来たら苦労しねえよ」という(笑)

ちなみに永間和彦の名前が初めて出て来るところで、愛すべきキャラ寺内博子さんが登場します
その後も五代努が永間和彦の母親に会いに行ったり、身代金の三千万が西田寛太(にしだかんた)という人物に引き落とされたりして、ちょっとずつ物語が進んでいきます。
そして、いよいよ、山尾陽介が「都議夫妻殺害及び放火事件」の参考人として同行を求められて物語がいい感じに加速していきます。
ネタバレ

なぜ藤堂康幸と藤堂江利子は死んだのか?
藤堂江利子を殺害したのは今西美咲で、藤堂康幸は自殺です。
今西美咲が娘の真奈美の素行で悩んでいることを母である藤堂江利子に相談するのですが、藤堂江利子からは望んでいる答えが返ってきませんでした。
その後もたびたび藤堂江利子に真奈美のことを相談しますが、欲しい答えが返ってこないし、なんだか自分が攻められているようなことを言われて、藤堂江利子への疑問や不満が膨らみ、それが段々と怒りに変わっていきました。
今西美咲は藤堂江利子を愛しているのか憎んでいるのかわからない混乱状態の中、電話で楽しそうにもう一人の娘のことを話す藤堂江利子を殺害してしまいます。
帰宅した藤堂康幸は藤堂江利子が死んでいるのを見つけます。
藤堂康幸は防犯カメラ確認し、今西美咲が藤堂江利子を殺害したことを知りました。
今西美咲を自分の娘だと思っている藤堂康幸は、自分の娘を守るため自殺を決意します。
山尾陽介の推理によると、藤堂康幸は周囲に火をつけたあと、灯油をしみこませた布をねじってそれを自分の首に巻いて絞めたのだろう。布は灯油で濡れていて緩みにくく、燃えてしまうと痕跡が残らない、とのことでした。
藤堂康幸は無理心中に見せかけることも考えましたが、しませんでした。
理由は、娘の榎並香織が選挙に出たときに無理心中では世間のイメージが悪くなるから、と考えたからです。また、何者かに殺されたのであれば同情票が期待できる、とも考えていたようです。
藤堂康幸は、生半可な偽装工作では警察の目が欺けない、そして、二人の娘のために自らを犠牲にしても、架空の犯人を作り上げなければならない、と考えてこのような行動をとりました。
なぜ山尾陽介は架空の犯人を作ったのか?
娘である今西美咲を守りたかったからです。
山尾陽介は「藤堂康幸がここまでやってくれたのだから、その遺志を継ごうと考えた」と言っていますが、「今西美咲のことを守ってやりたかった」というのが一番の理由だと思います。
素敵な片思い
父親が山尾陽介なのか藤堂康幸なのかを判別するDNA鑑定を望むかどうかを聞かれた今西美咲は「望まない」と答えました。
それを聞いた山尾陽介は「ありがたい。片思いを続けていられる」と答えます。
五代努が事件解決後に永間和彦の母親である永間珠代に会いに行き、永間和彦が藤堂康幸をナイフで切りつけたことを話します。
永間珠代は「やっぱり、あの子は深水江利子さんのことが忘れられなかったのね」と言いました。
そして、永間珠代は「山尾陽介が特別な関係でもない犯人の女性をかばっていたことはなぜだったのか?」と五代努に質問しました。
五代努は「片思いでした」と答えます。
それを聞いた永間珠代は「それは素敵」と答えました。
「素敵ですか?」と聞く五代努に、「片思いなら傷つくことも気づつけることもありませんから」と永間珠代は答えます。
永間珠代は「片思いの方が幸せになれることがあることを息子に伝えたかった」と話しました。

なんかこう粋な感じで物語は終わるんですけど、東野圭吾さんはやっぱり素敵だわ、と思いました
最後に

藤堂康幸は、二人の娘のことを考えて自殺を選びました。
が、榎並香織への思いは選挙のことを考えた、かなり議員さん一族よりの理由だったのがちょっぴり空しいな、なんて思いました。
対して、今西美咲への思いは「純粋に娘を守りたい」という理由で、「父ちゃんカッコいいぜ!」という、藤堂江利子が惚れ直す理由だったと思います。
ただ、順風満帆な議員生活を送っていたであろう藤堂康幸が自分の命をかけて守った今西美咲が自分の娘ではない可能性が高くて悲しい気持ちにはなりました。
が、生徒と関係を持った高校教師、一途な奥さんがいるのに愛人がいる議員さんの結末としてはナイスな結末なのかもしれません。
あと、五代努が聞き込みをしていて「個人情報ですから……」なんて話が行く先々で出て来るんですけど、リアリティはありますが「めんどくせえな」と思いました。
まあ、こんな時代ですからね。仕方ないのかもしれません。
読み終えたあと、本庄雅美(ほんじょうまさみ)の邸宅へ五代努と山尾陽介が聴きこみに行ったところをもう一度読みました。
ドキドキで心臓が破裂しそうな美咲ちゃんの前で、逮捕される気満々の陽介くんは悟りを開いた感じで「雫石の飛行機事故がどうたら」とか、読者にオレやらかしてますよアピールしまくりなのがカオスで笑えました。

以上です
最後までお読みいただき、ありがとうございました