【あらすじ・ネタバレ】「宙ごはん 町田そのこ 著」を読んだ感想と登場人物紹介

小説

「『宙ごはん』町田その子 著」を読みました。

「宙ごはん」の読み方は「そらごはん」です。

いまえださく
いまえださく

あちこちにころがって心が腹ペコになりますが、「飯食って何とか生き延びる」

あちこちにぶつかって傷つき、投げたり逃げたりすることもあるけれど「人に助けてもらって何とか生き残る」

「宙ごはん」は、そんな強くて弱くて優しくて責任感の塊みたいな人たちがたくさん出てくるお話でした。

めちゃくちゃ面白かったので、記憶と面白熱があるうちに下記のいろいろを書きます。

  • 「宙ごはん」の○○について
  • 登場人物紹介
  • あらすじ・内容
  • さいごに

13500字くらいありますけど、よろしかったらお付き合いください。

 



「宙ごはん」の○○について

映画について

現在、2023年2月22日ですけど、「宙ごはん」の映画は公開されていません。

YoutubeにPR映像は公開されています。

ちなみにキャスト3名のお名前です。

  • 川瀬 花野 役 永尾まりやさん
  • 川瀬 宙 役 板垣 樹さん
  • 佐伯 泰弘 役 白戸 達也さん

拝見させていただきましたが、花野さんと佐伯のキャストの方が「ちょっと若いんじゃないかな」と思いました。

でも、宙ちゃんが小学生のときのPR映像なので「このキャスティングでもいいのかもしれない」とも思ったり。PR映像をご覧になったみなさん、どうでしょうか?

文庫本について

現在、2023年2月22日ですが、文庫本は販売されていません。

文庫本が発売されるのは、単行本が販売されてから2年半から3年後が一般的な様子です。

「宙ごはん」の初版が2022年6月1日なので、「宙ごはん」の文庫本の販売予定は2024年の末ぐらいでしょうか。

2024年の末まで、まだずいぶんとありますね。図書館へ行きましょう。図書館へ。

文庫本を買う予定のお金でスタバのコーヒー飲みましょうよ。どう、です?

「どう」ってどうよみたいな感じですけど(笑)

全国の書店員さんが大絶賛について

全国の書店員さんの投票で売りたい本が選ばれるのが本屋大賞です。

「宙ごはん」は、2023年の本屋大賞にノミネートされました。

2023年は「宙ごはん」を含む、10作品がノミネートされました。

ちなみにほかの9作品です。

  • 「川のほとりに立つ者は」寺地 はるな
  • 「君のクイズ」 小川 哲
  • 「月の立つ林で」 青山 美智子
  • 「汝、星のごとく」 凪良 ゆう
  • 「方舟」 夕木 春央
  • 「#真相をお話しします」 結城 真一郎
  • 「爆弾」 呉 勝浩
  • 「光のとこにいてね」 一穂 ミチ
  • 「ラブカは静かに弓を持つ」 安壇 美緒

本屋大賞の発表は、2023年の4月12日を予定しているようです。

「宙ごはん」が本屋大賞を受賞すると良いですね。

登場人物紹介

川瀬 宙(かわせ そら)

主役。3月生まれ。

小さいころの宙は、お母さんは私を生んだ人で、ママはわたしを育ててくれる人だと思っていた。

宙は、お母さん=ママではなかったので、しらかば保育園年長クラス「すいか組」のときにひと悶着あった。ひと悶着の相手が大崎マリー。

佐伯恭弘からたくさんの料理を教わる。ちなみに一番最初に教わった料理は「パンケーキ」で、一番初めにごちそうになったのは「ボロネーゼ」だった。

宙は、「ビストロ サエキ」の厨房へ初めて入ったとき、すごく素敵な場所で「ここ好きだ。いるだけで満たされる気がする」と言っている。この時点で宙は料理人になることが決まっていたような気がします。

宙ちゃんが主役なんですけど、母ちゃんの花野さんが性格も生き方もドラマチック過ぎて若干主役を食われ気味の「宙ごはん」だなぁと、個人的に。

川瀬 花野(かわせ かの)

宙の生みの親。ナカトミビルを裸足で駆け回っていたジョン・マクレーンのような人。

人気のイラストレーターで常に仕事に追われている。仕事場は自宅。宙が引っ越してくる前は、樋野崎市の日の崎山にある築80年を超す、呪われた大きな日本家屋に1人で住んでいた。呪いを「イピカイエー」したのは花野さんです。

長くてあでやかな黒髪と真っ白な肌を持ち、まるで人形のような華やかな顔立ちと細い体の持ち主。いいにおいがして、お姫さまのようだ(心のキャンバスが真っ白だったころの宙 談)

がしかし、お姫さまは仮の姿。真・花野は風呂にはろくすっぽ入らず、高校のときから愛用しているテロンテロンのえんじ色のジャージはもはや皮膚と同化。牛乳はパックから直飲みで、ゲップもオナラも所かまわず。背中を丸めてノソノソと歩く姿が魔女のようだ(心のキャンバスに暗雲が少しかかってきたころの宙 談) 

花野は、ハスキーボイスで八重歯がある。宙はこの八重歯が好きらしい。

料理はできないと言っているが実はできる。子供のころに、一族、じいちゃんばあちゃんのご飯をいやいや用意していたから、料理はしたくないらしい。この呪われた一族の何やかんやも、おいおい描かれます。

第一話の花野は清々しいほどのポンコツ。ただ、悪い人間ではなく、宙のことを大切にしていることはわかる。それが第五話になると聖人のような人物になる。こうご期待。

佐伯 恭弘(さえき やすひろ)

最初から聖人な人物。金髪で短髪ですけど。

料理人。調理師学校に行き、東京の料理屋で修業をした。実家はビストロ。父亡き後、実家の「ビストロ サエキ」を継ぐ。

宙と暮らすことが決まり、料理が作れない花野は、料理上手な佐伯に川瀬家の食事を依頼しました。

花野は佐伯が料理上手だったから「宙においしいものを作ってやってくれ」と佐伯に頭を下げたのではなく、花野は佐伯の聖人っぷりを知っていたので「宙にやさしさを届けてやってくれ」と思っていたんじゃないかな、と思いました。

家庭的なビストロの料理人らしからぬ、腕にタトゥーで両耳にはピアスいっぱいの佐伯恭弘。

高校の入学式に金髪で登校した過去を持つ。佐伯いわく、「始めが肝心」らしい。でも昔はいじめられっこだった。死のうと思ったこともあり、いじめらていたのを花野に助けられて、その後は花野の忠犬。いつも幸せそうに、ぶんぶんしっぽを振っている。表現は悪いがこう思える人がいる人生は、最高に楽しいと思います。ちなみに、佐伯恭弘は花野の2つ下の後輩で風海の中学の先輩でもある。

宙にやたらと「やっちゃん」と呼ばせたい。でも、「大人の人とはきちんと話しなさい」と風海に言われていたので、宙は「やっちゃん」となかなか呼んでくれなかった。学生のころ、佐伯は風海のことが苦手だったらしいが、こんなところでも風海の弊害があった。しかし、第一話の最後の方で恭弘念願の「やっちゃん」の称号を得た。

佐伯はとにかく、花野がめっちゃ好き。花野がずっと好き。花野の芯があって強いところが好き。花野を好きなことで、とても人生が楽しく、人生を力強く生きているのがわかります。

そして「宙ごはん」は佐伯泰弘がいないと成り立ちません。それくらい要所要所で素晴らしい聖人っぷりを見せてくれます。

日坂 風海(ひさか ふみ)

宙の育ての親。花野のお父さん違いの妹。宙にママと呼ばれている。キウイフルーツアレルギー。

宙が変わったのか? 日坂ファミリーが変わったのか? シンガポールから帰ってきた風海と康太は別人のようでした。電話で話す萠も、もはや別人で、宙は「これ誰?」状態。

日坂家メンバーは、あまり好きではないので割愛。(笑)

日坂 萠(ひさか めぐむ)

宙の二つ上の従妹(いとこ) 

日坂 康太(ひさか こうた)

宙にパパと呼ばれている。右太ももに傷がある。子供のころシーソーから落ちたときのもの。宙が小学1年生のとき、32歳だった。

大崎 マリー(おおさき まりー)

柘植の孫。第1話と第2話に登場する。

宙とは、保育園の年長すいか組からの付き合い。5月生まれ。保育園のころのマリーは性格がきっぱりはっきりしていた。

すいか組のとき宙に言いたい放題いったことがあり、宙に返り討ちにあったことがある。返り討ちの内容は、宙の投げた黒のクレヨンが、マリーの額に刺さるように当たり、マリーは千昌夫のような顔になったこと。

鳥が好き。マリーの名の由来は、ピカソの恋人、マリー・テレーズからとったもの。柘植を喜ばせようと、母の桃子が名づけた。

第2話で傷ついた宙の前に現れるタイミングが完璧。そして、母親と家族の在り方について大崎マリーが語る、123ページは必読です。

何年後かに宙と再会するのかと思ったが、鳥の公園以降は出演オファーなし。大崎マリーの素敵に成長したバージョンを読むことができなくて残念です。どう考えても、そこら辺のチンケな男では太刀打ちできない素敵な女性へと羽ばたいているはずなのに。

長野県で素敵な生活を送っていることを願います。

桃子(ももこ)

絵が下手。留学までして頑張ったが評価されなかった。そんなこともあるさ。

大崎マリーの母であり、柘植の娘。柘植にやんわり「お前の絵はダメ」と言われ、桃子のキャンバスが暗黒面へ。

マリーいわく、桃子は「ちょっとおかしい」らしい。花野を「殺す」と言ったこともある。

絵で生計を立てようと、東京の美大を出てバルセロナに留学したが、ぜんぜん絵がうまくならなかった。そんなこともあるよ。

柘植が信頼していた画家との間に生まれたのがマリーちゃんで、自分がかなえられなかった絵描きさんへの夢をマリーに託す。が、マリーも絵が下手。そんなこともあるさ。

そして、マリーへの興味が消える。そんなことはあってはダメ。

柘植(つげ)

画廊のオーナーをしている。花野の恋人。いい歳こいたジジイのくせにヤキモチ焼き。

花野のマネージメントをしていたが、第二話で心臓発作が原因で亡くなる。

佐伯と宙の実の父は、ものすごく大事な場面で花野の夢に登場するが、柘植は出てこなかった。

泉下でさぞかし「キーっ!」とヤキモチを焼いている気がする。(笑)

田本(たもと)

宙いわく、パーフェクト家政婦さん。佐伯が川瀬家を卒業してから川瀬家のガーディアンとなる。

70歳だが、几帳面で鋭い女性。宙に驚きの洗濯物の干し方を伝授する。

風海に初対面で自家製の梅干を「しょっぱすぎる」と言われて御立腹。風海によい印象は持っていない。

直子

佐伯恭弘の母。

宙にやさしくしてくれるし、とんでも花野にも理解がありそう。

仮に恭弘と花野が結婚しても祝福してくれると思う。

佐伯 智美(さえき ともみ)

佐伯恭弘の奥さん。佐伯の5つ年下。旧姓、春川 智美。銀縁メガネが似合う厳しい女医さんみたいな外見なのに、実は誠実で気取らない親しみやすい人。

学生結婚をして専業主婦だったが、一方的に捨てられるような離婚を経験する。勤務経験ゼロに近かったが「ビストロ サエキ」のパートさんとなる。

宙は気がつくと智美のことが好きになっていた。が、それ以上に智美を好きになったのが佐伯の母、直子だった。両親と疎遠だった智美を実の子のようにかわいがった直子が「智美ちゃんと結婚してくれ」と息子の恭弘に猛プッシュ。で、佐伯落ちる。

神丘 鉄太(かみおか てつた)

中学校三年生のころの宙の彼氏。三年生になって初めて同じクラスになった。

宙は、鉄太と二人でクラス委員に選ばれ仲良くなり、鉄太が告白して二人は付き合うようになる。がしかし、宙が鉄太と付き合った理由が「別れることを経験してみたかったから」「人はどうしてわかれるのか、その理由が知りたかったから」とか言われてしまう。

父子家庭で七歳年上のお姉さんがいる。父の名前は正彦(まさひこ)で、姉の名前は佳澄(かすみ) 姉には子供がいて、葵(あおい)という名前。母親は小学生の時に病死しており、今は父と姉と姪と鉄太の四人で住んでいる。

ちなみに父、正彦は佐伯の高校の一学年先輩です。

遠宮 廻(とおみや めぐる)

宙と同じ樋野崎第一高校に通っていたが中退した。

宙の友人で情報通の三城奈々いわく、廻は、目立つのが嫌いな性格で、同級生の男子がお猿さんにみえるくらいクールで大人な感じらしい。雰囲気が良くて、手足が長くてモデルみたいなスタイル、くっきり二重のイケメンということです。

宙いわくだと、ひょうひょうとした雰囲気に感情がうかがえない表情で大学生に見えるらしい、とのこと。

高校の図書室で宙とは良くすれ違っていたらしい。本の趣味も似ていた。

廻いわく、廻の父は「心の弱い独裁者」で、いつも息子の廻と恋人の理恵に当たり散らしていたそうです。

その独裁者は、廻が高校卒業後に県外に就職しようとしていることを知ってブチギレ。理恵が「解放してやって」と包丁を持ち出し威嚇するも、独裁者のくせに怯むことなく理恵に特攻。もみくちゃになった挙句、独裁者の腹に包丁が刺さってしまい、理恵も消えない傷をほっぺたに負ってしまった。

それを黙ってみていることしかできなかった自分が情けなくなり、高校を退学したのだと廻は言っている。

和田 ヒロム(わだ ひろむ)

東樋野崎小学校5年生。佐伯と事故を起こした相手の息子。母は、和田雅美。

以上です。

あらすじ・内容

第一話 ふわふわパンケーキのイチゴジャム添え

川瀬宙が小学校1年生のころの話。

今まで一緒に暮らしていた育ての親の風海家族と離れ、生みの親の花野と宙が暮らし始めることになる。ここから、宙の人生が180度方向転換する。

花野は「あたし、料理ができないのよー」ということで、川瀬家の料理を担当することになったのが「やっちゃん」こと佐伯恭弘。

佐伯のタトゥーやらピアスの外見にビビる宙だったが、ここから佐伯は宙の父親となり師匠となり、宙の全てを守る盾となり人生を良い方向へと導く羅針盤となる。

花野の仕事が一段落し、食事に出かけることになったある日、同席したのが柘植だった。

この食事の席で宙には居場所がなかった。その店には小学1年生が食べるようなものがなく、ほぼ大人味の料理ばかり。そして、花野と柘植は二人で盛り上がっていたから。その晩、柘植が花野の部屋に泊まるが、翌朝ちょっとしたトラブルがある。

花野のことが大好きな佐伯のやっちゃんに対して、小学1年生らしからぬ気の回し方をした宙ちゃんが「柘植が花野の部屋に泊まっているのを見た佐伯がショックを受ける。これはヤバいぜ」みたいな。

で、宙ちゃんは朝早くから家の前に陣取って佐伯を待つことになりますが、佐伯は勘違い絶好調。

花野と柘植のいる部屋に「花野さん大丈夫か!」と飛び込んでいきます。「これはヤバいぜ」と思った宙ちゃんでしたが、時すでに遅し。佐伯は「出てけバカたれ!」と花野に部屋からたたき出された後でした。

このあと、宙、佐伯と花野の三人でのやり取りがあるんですが、このやり取りの中で花野が「やっぱり無理だ。引き取るんじゃなかった」と言ってしまいます。この言葉を聞いた宙はショックを受けて走り出し、それを追いかけて傷ついた宙を抱きしめたのが、ヒーロー佐伯のやっちゃんです。

佐伯は傷ついた宙を「ビストロ サエキ」へと連れていき、二人で朝ご飯のパンケーキをつくることになります。

ーービストロサエキでの会話が素敵ーー

佐伯「オレ、花野さんのことは分かるんだ。何年見てると思うんだ」

花野「恭弘のくせに、あたしのフォローしようとしてんじゃねえぇぇ」

この「ビストロ サエキ」でのやり取りは歴史に残る微笑ましさなので、ぜひ読んでいただきたいです。

第一話で「あらためて勉強になったな」というところは、「メシがうまいかどうかを感じる要素は、メシそのもののうまさじゃないのよね」という、ところです。

極端な話、殺し屋から散々逃げ回った挙句に銃を突きつけられて食べる三ツ星フルコースよりも、気の合う仲間とサバイバルゲームで走り回ったあとに食べるマクドナルドのハッピーセットの方がうまいに決まっている。みたいな。

殺し屋に狙われるほどの良いことも悪いこともしてませんし、虫が嫌いでサバイバルゲームで走り回ることもないと思いますし、どちらかと言うとご飯派なのでマクドナルドもあまり好きではないのですけど。みたいな。(笑)

あと、宙との生活をとても楽しみにするほどだった花野さん。そんな花野に妹の風海は「姉さんに子育てなんぞ無理」と言い続けてきました。「無理」と言われ続けてきた花野の気持ちはさぞかし辛かったことだと思いますが、花野はなぜ黙って過ごしてきたのか。宙はなぜ風海に育てられることとなったのかがわかるのは、必読の第五話になります。

第二話 かつおとこんぶが香るほこほこひゅうめん

宙が小学6年生のころの話。ちなみに3組。暴君、元町勇気のせいで宙のクラスは雑然としていました。

宙ちゃんいわく、元町勇気が自分のことを「オレ」というアクセントがおかしく、バナナ・オレみたいで「バナナな・俺」にしか聞こえないらしいです。「ゴーヤ、オレまじ無理」という元町勇気に、宙も「お前のオレまじ無理」みたいな座り心地の悪さを感じていた、宙ちゃん小学生最後の年です。とか、どうでもいいですか。

6年生になった宙は、保育園のときのライバル大崎マリーと同じクラスで、マリーとは保育園で返り討ち千昌夫の刑にした以来の接点だったりしました。

第二話では、この大崎マリーがとてつもなくいい感じです。第二話で宙が最悪な気持ちのときに大崎マリーは現れ、二人して元町勇気のことをかなりディスった挙句、宙の心を軽くして去っていきます。

特に122ページのマリーはすごかった。大崎マリーは、母性とか親子の情を「かろうじて香る、プールに垂らした香水」だと表現しました。小学6年生でこんな表現がたやすくできるのは修羅の道を歩んできた証拠。でも、やさぐれていないマリーちゃん。すばらしいです。

とかは置いておいて、ざっくりなあらすじは下記の通りです。

第二話では、佐伯のやっちゃんが37歳になっています。金髪は茶髪に変わり、タトゥーは隠すようになっていました。佐伯が落ち着いた原因は、佐伯の父が病で逝去し、ビストロサエキのオーナーになったからです。

佐伯にはお店を守るという責任が生じ、ビストロサエキに専念することになりました。そして、川瀬家に来なくなりました。代わりに来たのが家政婦の田本さん。この田本さんがいい人で、宙のことをちゃんと見てくれています。花野への報告ノートに「宙の靴やシャンプーが合ってない」とか几帳面に書いて宙の変化を知らせてくれました。

花野の仕事は順調に進んでいて、今では有名作家になっていました。とくに海外で権威のある賞を受賞してからは数年先まで予定が埋まっていました。メディアへの露出も増えて仕事が押し寄せ、にっちもさっちものいかない時に柘植が花野のマネージメントを引き受けることになりました。

そんな柘植が心筋梗塞で急逝。

花野が「柘植が死んだ」と聞いたとき、十年に一度の大型台風まっただ中でした。にもかかわらず、花野は宙をはたき倒して柘植の下へ向かいます。あとでわかるのですが、花野は宙をはたき倒したことさえ覚えていませんでした。それほどに必死だったのです。

一晩あけて花野は家に帰ってきますが、柘植の身内が「来るな」と言っているのに、花野は「通夜へ行く」と言ってききません。この鬼気迫る花野を止めたのが佐伯でした。ちなみに佐伯はこのときに花野の化粧水ボトルアタックを食らっていますが、二度目の香水の小瓶アタックははたき落としました。この時の花野を「ちょっと元町勇気に似ている」と宙は表現しています。

二度のアタックを食らいながらも底抜けに優しい佐伯が作ったスープを花野と宙が飲んでいるとき、柘植の娘の桃子が川瀬家へアタックを仕掛けてきました。

柘植の片腕角野に燃料を注入された魔人桃子は興奮していて、「いい加減にしなさいよ!」「私はあんたを許さない!」と花野に呪いの言葉を詠唱しましたが、その怒れる魔人を沈めたのが聖少女マリー様。

このとき宙は初めて大崎マリーが柘植の孫だということを知ります。

その後、柘植の通夜葬儀も滞りなく済みますが、柘植が死んだことを聞いた台風の夜、花野が宙をはたき倒して柘植の下へ行ったことでひと悶着あります。

宙の頬っぺたの傷を見た花野が「あんたその頬っぺたどうしたの?」ぐらいひょうひょうと言ってしまったので、宙の「お前が殴ったんじゃねーかよ!」的なカウンターに柘植の訃報がよみがえったかのような衝撃を受ける花野。で、花野その場から逃げる。で、佐伯追う。みたいな。

このいたたまれない状態の宙を救うのも聖少女マリー様で、花野と宙、親子そろってマリー様に助けられます。

このあとの野鳥公園でのマリーと宙の会話は必読ですが、「これが小学6年生の会話か?」とか言ってはいけません。小学6年生でも「数々の修羅場をくぐり頑張って立ち上がれば、悟りを開くことは可能なのだ!」と、読んでいるこちらも「大人なバナナなオレ頑張れ!」なんて勇気をもらえるはずです。

いまえださく
いまえださく

告知!

第1第3土曜日は、ビストロサエキで「やっちゃんお料理教室」が絶賛開催中でーす!

第三話 あなたのための、きのこのとろとろポタージュ

宙が中学3年生のころのお話。佐伯恭弘と春川智美が結婚します。

宙が小学校を卒業する目前に花野がスランプにおちいって絵が描けなくなります。

そんな花野の元気を取り戻そうと、佐伯や田本がおいしい料理を作ったり、休みの日にはドライブや映画へと連れだします。数か月かかりましたが、花野は復活! そのとき花野が佐伯に言ったセリフが「あたしにはあんたが必要なのかもしれない。恭弘、傍にいてくれてありがとう」でした。佐伯のやっちゃん人生でハッピーマックスの瞬間。がしかし、花野の「お互いを満たす幸せじゃないとダメなのよ」とかなんとかで、長くは続きませんでしたけど。

で、佐伯と智美の結婚が決まりました。なので、「やっちゃんお料理教室」はもう開催されていません。

このころ、宙には神丘鉄太という彼氏がいます。鉄太のお姉さんと娘の葵を助けるのが第三話のミッションです。

お姉さんの佳澄はモラハラに遭って出戻りさん。情緒不安定で家の外に出るのは怖いし、茶碗一つも洗えないときがあります。佳澄母ちゃんが不安定なので娘の葵も不安定。そんな姉と姪の面倒を見ている鉄太も限界寸前でした。宙は少しでも「鉄太の力になれたら」と料理を作ろうとしますが、世代も性別もコンディションも違う相手に何を作っていいかわからず困っていました。

そんな宙を助けたのが、またしてもヒーローやっちゃん。鉄太を「わたしの彼氏」と紹介したときに「かかかかかかれし!」と悲鳴を上げて「あーだめだ。脳が壊れる」とその場に頭を抱えて座り込んだ、宙のヒーローでした。

鉄太と宙から神丘家の事情を聞いた佐伯は鉄太に「事情はよくわかった。ずっと頑張ってたんだな」と言い、神丘家に料理を作りに行きます。

佐伯は、佳澄のためだけに料理を作り、佳澄を地獄のような日々から引っ張り上げる料理と言葉を届けました。最初に出した料理は温かな「きのこのポタージュ」で、久しぶりに温かな料理を食べた佳澄はびっくりしてスプーンを落としてしまうほど疲弊していましたが、同時に温かな料理に感動しました。

その後、父の正彦が帰宅し、料理を食べて元気になっていた佳澄を見て泣きそうになり一件落着。みんなで一緒に食卓を囲むことに。このお食事会で、正彦が佐伯と同じ高校だとかの話がありますが、そんなことよりも神丘家はもう大丈夫そうです。

宙は家に帰り佐伯が作った「きのこのポタージュ」を自分が作ったと花野にふるまいます。「きのこのポタージュ」を飲んだ花野は誰が作ったか一発で見抜き一言「元気そうだった?」と。このシーンがとても良かったです。

第四話 思い出とぱらぱらレタス卵チャーハン

第四話は、宙が高校二年生のときの出来事で、川瀬家の確執の話。宙の曽祖母にあたる菊(きく) 曽祖父の正(ただし) 祖母の敦子(あつこ)と、花野の確執や、花野と風海の過去が明らかになります。

築80年を超える川瀬家をリフォームしようとすることころから第四話は始まります。

リフォーム工事をするために断捨離中の川瀬家ですが、花野は「いらない、いらない、いっらなーい」と、川瀬家にあるものを片っ端から廃棄しまくっていました。

にもかかわらず、「叱られるから」と風海には知らせていません。ちなみにシンガポールにいた風海が帰国したのは昨年の夏の終わりでした。

案の定、監視カメラでもあったかのようなナイスなタイミングで風海がやってきて「何よこれ!」と絶叫します。その後、花野と風海は話をしますが、花野の「捨てた。捨てた」のセリフ連発に右のこめかみをぴくぴくと痙攣させながら「信っじられない!」と絶叫し、宙をぶん殴って帰っていきます。宙ちゃん、とばっちり。(笑)

それはさておき、高校二年生になっても宙と神丘鉄太の交際は続いていますが、正彦の姉の真記子さんが花野のことを知って以来、真記子は娘の宙のことをよく思っておらず、鉄太に「宙と別れろ」と迫ります。

鉄太は困りますが、姉の佳澄の仕事を世話してくれたのが真記子さんなので、逆らうわけにはいきません。そこで鉄太は「表面上は別れたことにしてくれないか。秘密で付き合おう」と宙に提案します。

ということで、宙は鉄太と秘密の密会を繰り返しますが、とうとう鉄太の浮気が発覚。というか、鉄太のおバカが花野と宙がリフォーム中に借りているマンションの前を浮気相手と堂々と歩いていて浮気が発覚するというポンコツな情けなさ。

しかもちまたでは、鉄太は「宙にフラれた」と言っているというポンコツマックスな情けなさです。

このときに宙が「キャバクラ嬢なんて過去は勘弁してほしかった」と花野に言いますが、花野は「ごめんね」と言うだけ。宙と鉄太の破局への旅は、いろいろと鉄太が弱いのが原因なのに、真記子がつついてきた花野の過去のことなんて関係ないのに、「花野さんは悪くないじゃん」なんて思いましたけどね。

また、花野がキャバ嬢をしていた理由がとても切なくて、宙の出生にも関わってきます。のちのち花野の過去を知ることになりますが、過去の花野の頑張りと葛藤を知ると「ごめんね」とだけ言った花野がかっこよくて、そして抱きしめたくなると思います。

その後、リフォーム中の川瀬家に魔人風海が現れました。

魔人は木材を投げて暴れます。

魔人の痛恨の一撃!

花野の額に木材が「スコーン!」

血が「ドバーっ!」

魔人風海は、残虐非道の暴虐武人を繰り広げました。

がしかし、宙のカウンター攻撃!

宙の会心の一撃を食らった魔人は意気消沈。どこかへ去っていきました……。

ここから花野と宙で、どこかへ去っていった風海を探すことになります。

無事に風海は見つかりますが、花野の口から語られる呪いにも似た川瀬家の真実が衝撃的です。花野はなぜ大きな川瀬家の屋敷に一人で住み、なぜキャバ嬢をしていたかも語られるので必読です。

ああそうだ、第四話の最後に鉄太は、すがすがしく宙にフラれます。

第五話 ふわふわパンケーキは、永遠に心をめぐる

第五話は、宙が高校三年生のときの話。

佐伯が死にます。バイクの事故で。

佐伯が亡くなり、宙も花野も智美も直子も、みんなみんなボロボロです。特に智美の落胆ぶりはひどく、佐伯がいなくなってから、智美は仏間から動かなくなりました。

事故の相手がこれまた許しがたく、事故の原因が、飲酒運転の上に対向車線にはみ出してきたこととかもう最悪。しかも再犯で逮捕されるのは三回目。佐伯との事故を起こした後、事故った車の中で爆睡していたという、ろくでなしが囚人服を着て歩いているような人間でした。

それから3か月後に宙の同級生、遠宮廻が学校を退学します。

遠宮廻が退学を決めた事件を起こしたのが、遠宮の父の恋人の理恵さん。遠宮の父が刺されたので、父は被害者なんですけど、この父もろくでなしブルースで、理恵さんが被害者のような事件でした。

事件の発端は父の意にそぐわない廻の行動で、その行動を知った父がブチギレ。暴れまわる父から廻をかばった理恵さんは一生消えない傷を負ってしまいました。「何とか償いたい。赦してもらいたい」と考える遠宮廻でしたが、どうすればいいのかわかりませんでした。

そんなときに、遠宮廻と佐伯を殺した加害者の家族がうまい具合に絡み合い、廻は加害者が「赦しを乞うてはだめだ」と悟ります。

その後、花野の強引な佐伯攻撃(飯食ったらなんとかなる)を川瀬家で開催。メンバーは花野と宙、佐伯を殺した加害者の家族、和田ヒロムと和田雅美。あとは遠宮廻です。

この食事の席で花野の口から衝撃の事実が次々と語られます。宙の父が死んでいたこと、人を殺していたこと。花野が生まれたばかりの宙と心中しようとしていたこと。あまりにも衝撃で、しかも宙の父が死んだ理由が今の和田ヒロムと雅美の状況にマッチしていました。

「時に謝罪は自分のためのものになってしまう。だから謝罪することさえできない。してはいけない」

それでも人は生きていける。いろいろな人に助けてもらいながら生きていけばいい。大事なのは「とにかく生きる」こと。そのあとは「笑って生きる」ができたら上等だ。と言う花野の言葉に、ヒロムと雅美、遠宮廻は助けられたのでした。

その後、宙は「ビストロ サエキ」を継ぎ、ヒーロー佐伯のやっちゃんの遺志を継ぐことになります。

さいごに

図書館で一緒に借りたので、「宙ごはん」と「『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ 著」を同時進行で読んでいました。

2作品ともに女の子が食べることを軸に成長していくような物語で、物語のキーを握るのが血のつながらないお父さんのような存在。と、2作品ともに似ているんだけど、最後の締め方がまったく違ったので面白かった。というか、得した気分になりました。

何が得したかというと、「宙ごはん」は重要なキャラクターの死で伏線をうまく回収したような感じだったのに対して、「そして、バトンは渡された」は誰も死ぬこともなく「しれーっと」静かにエンディングを迎えたところで、「えっ、これで終わり!?」みたいな衝撃が増幅されたところです。

「宙ごはん」と「そして、バトンは渡された」の同時読み、おすすめです。

「宙ごはん」の初回限定版にはカバーの裏に「特別掌編」というものが掲載されているようです。「特別掌編」には佐伯の決意みたいなものが書かれているようです。ぜひ読みたいです。図書館で借りた「宙ごはん」を読んでいるので文句言うのも何なんですけど、本のカバーを裏返してカバーフィルムを貼ってくれるとうれしい。(笑)

最初に書きましたが、

あちこちにころがって心が腹ペコになりますが、「飯食って何とか生き延びる」

あちこちにぶつかって傷つき、投げたり逃げたりすることもあるけれど「人に助けてもらって何とか生き残る」

そんな強くて弱くて優しくて責任感の塊みたいな人たちがたくさん出てくるお話です。

伏線の回収もうまく、泣き所もあり、何より元気をいただけると思いますので、「宙ごはん」まだ読んでいない方は、ぜひ。

いまえださく
いまえださく

以上です。

ありえないぐらいの長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。