【あらすじ・ネタバレ】「『爆弾犯と殺人犯の物語』 久保りこ 著」を読んだ感想

小説

「爆弾犯と殺人犯の物語」の結末は、3組のカップルのうち1組のカップルが不幸になるというものでした。

  • 爆弾犯と殺人犯
  • 植物状態で12年間眠り続けていた人と、新興宗教に入信していた人
  • 画家と先生

どのカップルが不幸になると思います?

この記事は、がっつりネタバレしてます。

「爆弾犯と殺人犯の物語」を読み終えた方向けに書きました。

「爆弾犯と殺人犯の物語」は、とても面白かったので、個人的にネタバレなしで読んでいただきたいです。

この記事には、わたしなりの考察に毛が生えた程度のことも書いていますので、「爆弾犯と殺人犯の物語」を読んだ後に、暇でヒマでどうしようもなかったら、また来てやってください。

お待ちしております。

ぜひ、お待ちしております(笑)

いまえださく
いまえださく

遅れましたが、お越しいただきありがとうございます。

 



あらすじと、考察に毛が生えたもの

爆弾犯と殺人犯の物語

爆弾犯と殺人犯がヒントをチラチラと出し惜しみしながら、言葉のナイフを使って相手をチクチクと刺していく物語で、「読んでるこっちがチクチク痛いわっ!」と言いたくなる物語です。

この章だけを見ると、爆弾犯が「オッス、おら爆弾犯」と自白するので誰がボマーかわかります。ですが、「殺人犯は、お前だっ!」というのはないので、「まだ何かありそうだな」と思える展開で終わります。

なので、「えっ、これで終わり!?」みたいな、ちょっぴり消化不良な感じに私はなりました。

 登場人物

・星子 空也(ほしこ くうや)

爆弾犯。30歳の薬品会社の研究員。ひょろっとしたノッポ。
高校生のときに爆弾を作り、その爆弾の中にパチンコ玉を1個入れた。そのパチンコ玉が小夜子の左目に命中。小夜子は、そのパチンコ玉を「悪魔の塊」と表現している。
両親は健在で、両親と兄夫婦が一緒に住んでいる。両親が遠くに住んでいるためか、家族とはちょっぴり疎遠らしい。

・町田 小夜子(まちだ さよこ)

左目が義眼。32歳。化粧品会社のオペレーターをしている。両親はいない。
義眼になったのは二十歳のとき。ベビーシッターのアルバイト中に事故に遭い義眼になった。
短大を卒業して保育士になるつもりだった。
公園で爆弾が爆発したら普通は大々的にニュースに取り上げられるはず。でも、小夜子が爆発に巻き込まれた日に飛行機事故があり、爆弾事件は大きなニュースにはならなかった。
おかげで小夜子が被害に遭った爆弾騒ぎに注目は集まらず、犯人もわからずじまいになってしまった。

・松井先生(まついせんせい)

高校の科学教師で、小夜子の知り合い。空也が高校生のときの先生でもあった。
高校の同窓会で久しぶりに空也と会い、冗談で「今も爆弾作ってるの?」とか言った名探偵でもある。
鍵のかかった薬品庫のカギを信頼する生徒に預けて薬品を準備させていた。その準備をしていたのが空也で、このときに薬品をちょろまかし空也は爆弾を作った。
松井先生は、いつもせわしなく目を動かしている。にもかかわらず、動きがスロー(空也 談)
松井先生の口癖は、「任せたからお願い」

・門田 ひな(かどた ひな)

中学生。失踪した父親、門田京一郎を捜しに小夜子に会いに来た。いつも制服姿で「制服は戦闘服のつもり」と語っている。
星子家に来たときの、ひなと空也のやり取りが面白い。ひなの中では「ロマンチスト=キモい」らしい。父親も空也もキモいらしい。

「空也」は高校生の時に爆弾を作って公園に置きます。

その公園にベビーシッター中の「小夜子」が「ひな」とやってきて、ひなが爆弾を爆発させてしまいます。
この爆発で小夜子は左目を失い義眼になりました。
何年か後、空也は小夜子の義眼に惹かれて結婚するという、かなりぶっ飛んだストーリーです。

二人のこの出会いが偶然なのかどうかはわかりません。ただ、この時点で空也は自分が作った爆弾で小夜子が失明したことを知っていました。
そして、小夜子は小夜子で、「お前、爆弾犯だろ?」みたいなことを頻繁に空也との会話に混ぜてくるという、チクチクゲームをふたりは展開します。

左目を失った直後の小夜子は、はらわた煮えくりかえりだったかもしれませんが、時間が経ち爆弾犯に興味を持ったのかもしれません。
そんな折、小夜子は知り合いだった空也の高校の時の松井先生の口から「私の生徒が爆弾犯」とか言われて、空也に近づいたのかもしれません。

いまえださく
いまえださく

そんな気がします。

結婚後に二人の元へ門田ひながやってきて「父の行方がわからない」と言います。

物語が進むと、ひなの父親と不倫関係にあった小夜子が、ひなの父親を殺したような証拠が出てきます。
ですが、小夜子に対して「犯人はお前だろっ!」というのはありません。会話の中で「ひょっとすると、わたしが殺したのかもしれませんね」みたいにチラチラと告白していく感じです。

タイトルが「爆弾犯と殺人犯の物語」なので、小夜子が門田ひなの父親を殺した線が濃いと思いますが、この章ではひなの父親の安否はわかりません。

また、爆弾が入っていた箱には赤い字で「爆弾」と書いてあった、というのが最後にわかります。
小夜子は「そこに爆弾がある」と知っていながら、幼い門田ひなを爆弾に近づけたことになります。幼い子を故意に爆弾に近づけるのは、確実に殺人犯的な行為です。なので、小夜子のこの行為を殺人犯としているのかもしれません。

いまえださく
いまえださく

どうでしょうか?

いや、ちょっと無理があるか(笑)

この章だけを読んだ考察に毛が生えたものでした。

各章に言えることですが、順番に読み進めていくとチラチラと新たな事実が発覚するので、違う考え方ができます。

その点は、ご了承ください。

砂漠にサボテンは咲かない

「爆弾犯と殺人犯の物語」のスピンオフみたいな位置付けの話。

雫と小夜子は同じ日に事故に遭っている。その日は飛行機事故があり、日本中が事故に注目した。

なぜ雫が事故にあったのか。

ハルはどこまで雫の事故に関わっているのか。それとも事故には関わっていないのか。

そんなこんなが読みどころです。

 登場人物

・青柳 雫(あおやぎ しずく)

事故に遭い、12年間ずっと意識がないまま病院で眠っていた。メキシコ。
二十歳から眠り続けていたので、ただいま32歳。

・岩波 春陽(いわなみ はるひ)

ハルと呼ばれている、雫の彼氏。雫の2歳年上。サボテン。
新興宗教シラセの事務局にいたことで、シラセのポンコツ具合を少しずつ知り脱会した、元シラセ。
12年ものあいだ眠り続ける恋人を待ち続けるという偉業を成し遂げた勇者。どこぞの空也とは大違いです。
いや、空也も小夜子が眠り続けたら10年でも20年でも平気で待ち続けそうではありますね。

・神楽(かぐら)

ハルを新興宗教のシラセに誘った人物。ハルの5歳ほど年上。
ハルのご近所さんで若年性のアルツハイマーになってしまったハルの母親を助けたことで、ご近所づきあいが始まった。
自宅で絵画教室をしている。親の遺産で悠々自適に生活しているFIREウーマン。
神楽はハルのことが好きで「雫、昏睡状態フォーエバー」とお祈りをしていたが、ハルにきっぱりとこう言われた「僕の幸せは雫のところにしかありません」。あかん、ハルの清々しさは周りが恨みを買うやつだ(笑)

・鹿間 美和(しかま みわ)

読んでいて、「コイツ最悪」とか思った人。
肝硬変を患っている息子のために雫をひき殺そうとしたのか。
ハルが好きな神楽のために雫をひき殺そうとしたのか。
結局、自分が幸せなら人の不幸は蜜の味なシラセの考えにどっぷりな人。
「雫さん、一発ぶん殴ってやればいいのに」とか思いました。

・鹿間 隆(しかま たかし)

60代。鹿間美和の夫。
雫を車ではねた容疑者とされていたが、実際には違う。
末期ガンの診断をされており、雫の事故で起訴された直後に亡くなっている。

雫は事故に遭い12年間も眠り続けました。

雫が病院で目を覚ますと、そばには彼氏の岩波春陽、ハルがいました。ちょっと老けていました。

事故はひき逃げでした。犯人はその日のうちに自首しています。

雫が不運だったのは、救急搬送が遅れたことでした。
搬送が遅れた原因は、同じ時間帯に、同じような場所で、若い女性が同じ頭部にケガを負う事故に遭っていたからでした。

この若い女性が小夜子です。

血を流して倒れている雫を見つけた人が救急車を呼んでくれましたが、電話の向こうの通信指令員は「もう連絡もらってますよ。救急車が向かっていますよ」と言いました。

なぜか?

通信指令員は、「頭部をケガした女性」という通報で、ケガをした女性は一人だけ・・・・だと勘違いしてしまったからです。

雫さんは放置プレイ。小夜子さんガッツポーズです。

雫さんは放置プレイがなかったら、12年間も眠り続けることはなかったのかもしれません。
こう考えると、雫は被害者で、小夜子は加害者ってことになります。

がしかし、今となっては「目が覚めて良かったね」と思うしかないと思われる、ポジティブシンキングな雫さんでした。

いまえださく
いまえださく

出だしは好調の第二章

いやいや、空也と小夜子はどこいった?

なんて思っていたら、「そこに小夜子か!」みたいな

ということで、この時点では「どんな伏線が出てくるんだろ」とか、

「ハルが何かやってんな」と思って読んでいました

雫とハルが付き合い始めたのは、雫が19歳で、ハルが21歳のころ。

そのころハルは、新興宗教「シラセ」に入信していました。
ハルをシラセに誘ったのは、近所に住む神楽と言う女性でした。

シラセの教祖は「白瀬玄司しらせげんじ」といい、シラセに入信している人は、白瀬玄司の分身とされている、小さな石のペンダントをしていました。結構なお値段らしいです(ハル 談)

信者にとって何よりノーブルなペンダントを、雫さんはこう表現されております。

「ハルの胸に顔をうずめると石が邪魔だ!」

「石のぶんざいでわたしの愛に水を差すんじゃねぇ!」

ちなみに、12年後のハルはペンダントをしていませんでした。

ハルはシラセをやめていました。シラセを辞めた理由は、雫の事故でした。

雫、重畳! この上なく満足なり。

いまえださく
いまえださく

新興宗教の「シラセ」がでてきたので

ここまでは、間違いなくハルが事件に絡んでいるなと思っていました

雫をひき逃げしたのは鹿間隆で、肝硬変で入院している息子の容体が急変して病院へ急いで向かっているところでした。

雫が車にはねられたとき、妻の鹿間美和が同乗していて、事故を起こしたときに鹿間隆は末期ガンの診断を受けていました。

鹿間隆は自首して起訴されて間もなく亡くなりました。

息子は移植を受け元気になっています。

臓器の提供者は、母の鹿間美和でした。

いまえださく
いまえださく

余命いくばくかの人が出てくると

「その人、絶対に犯人じゃないよね」

「誰か、かばってるよね」

って、なりません?

結局、ハルさんの敏腕調査員並みの行動力と粘り強さで、過去の事件も、雫が歩道橋から突き落とされた現在の事件も神楽が犯人だとわかり神楽は逮捕されます。

鹿間美和について調べ始めた段階ではわからないことでしたが、雫が鹿間美和の息子のドナーとして選ばれた生け贄だったかもしれない、と思っていましたが違いました。

もしくは、神楽がハルとくっつきたいがために、息子の高額な手術費用を出してやる条件で雫の殺害を神楽が鹿間美和に依頼したのかもしれない、と考えたこっちが正解でした。

わたしは、そんなこんなと考えながら読んでいたので、ちょっと物足りない結末の「砂漠にサボテンは咲かない」でした。

耳を塞いで口をつぐむ

門田京一郎を殺したのは誰か?

隕石公園の近くの隠れ家で繰り広げられた、星子空也と門田ゆかりの駆け引きが、あまり緊張感がなくておもしろい。

 登場人物

・門田 ゆかり

門田ひなの母親。
門田京一郎の葬式に来ていた空也を見て驚き。隕石公園であった空也が小夜子の夫だと知って驚く。そして、空也の職場にたずねてくる。
ひなに「絵を描いてくれる彼氏と歌を作ってくれる彼氏どっちがいい?」と聞かれて「絵も歌も下手でいいから誠実な人がいい」と答えたリアリスト。

・門田 ひな

言動から察するに、ちょっと大人になった感じ。
だが、空也を変人扱いしているところは、あいかわらず。
母親に知らせずに父親の行方を調査しているのも、あいかわらず。
のちのちキーになる、因果応報のアイスレモネードをよく飲んでいる。

・星子 空也

あいかわらず。変人。
隕石公園の近くに秘密の隠れ家を持っている。そこで性懲りもなく爆弾を作っている。
空也いわく、「爆弾をどうやって作るかを考えて、実際に作ってみる。それをささやかに楽しんでいるだけ。爆弾の性能を確かめるためだけに山奥に土地を買い爆発を試している。それだけのことだ」。どこがそれだけのことだ、と言いたい。

・星子 小夜子

あいかわらず。チクチク。

・門田 京一郎

亡くなったことが判明する。

またキャストが「爆弾犯と殺人犯の物語」の物語に戻ります。

前回から、半年ぐらいたったころの話です。

雨の日。小夜子とひなが二人でコーヒーショップに入るところを見かけた空也は後を追い、近くの席で聞き耳を立てます。
小夜子とひなの会話の内容はこんな感じでした。

ひな 「いつ結婚したの?」

小夜子 「去年の12月に知り合って、今年の2月に結婚した」

ひな 「父がいなくなってから、結婚したんですね」

ひな 「ここの住所は父のスケジュール帳を見て知りました」

ひな 「父がいなくなった後にあなたたちが結婚しているのに、なぜ父が残したスケジュール帳にここの住所がかいてあるのでしょうか?」

小夜子 「お母さんに聞いてみたら」

ひなちゃんはお母さんには聞きにくいと言いました。

なぜなら、父と小夜子が不倫していたことを母が知っていたのかもしれないと、疑い始めていたからでした。

その夜、小夜子が秘密を一つ告白します。

「携帯は忘れたわけじゃない。わざと置いた」

「終わらせたかったら、捨てた」

「捨てたのに電話したのは、誰が電話に出るか知りたかったから」

この告白に空也はこう答えます。

「きっと僕に出会うために携帯を鳴らしてみたかったのさ」

なんだろう……。

いまえださく
いまえださく

なんかムカつく(笑)

渓谷で、ひなの父、門田京一郎の遺体が見つかります。京一郎の遺体は、死後1年くらい経過していました。隕石公園から渓谷へ門田京一郎を運んだのは、妻の門田ゆかりです。

小夜子に頼まれた空也は京一郎のお葬式に参列します。そこで空也はひなの母、門田ゆかりを目にしました。空也は驚きました。なぜか門田ゆかりを知っていたからです。

でも、空也は、門田ゆかりとどこで会ったのかがわかりません。門田ゆかりも空也のことを知っている様子で驚いていました。

空也は帰宅後に満月を見て門田ゆかりのことを不意に思い出しました。門田ゆかりとは、隕石が落ちた公園の駐車場で話したことがありました。

お葬式で門田ゆかりが驚いたのは、駐車場であった男が星子空也だとわかったからです。それまで、小夜子が結婚した相手の名前は知っていましたが、それが駐車場であった男と一致したから驚いたのです。

門田ゆかりは星子空也のことをいろいろと調べます。

星子空也が隕石公園で門田京一郎が使っていたゴールドの携帯電話を拾って持っていたこと。
小夜子が靴箱の中に隠していたピカピカの黒い携帯電話を持っていたこと。
隕石公園の近くに隠れ家を持っていたこと。
隠れ家でゴールドとピカピカの黒い携帯電話を爆破したこと。
高校生のときに爆弾を作って小夜子の左目を奪ったこと。などなど。

これらの「などなど。」を武器に、門田ゆかりは、星子空也に「耳を塞いで口をつぐんで」と交渉します。具体的には、「門田京一郎は事故死で、お互いの事情は何も知らないことにしよう」と言いました。

星子空也は門田ゆかりの交渉を受け一件落着。
何事もなかったように空也と小夜子のチクチク生活が続きます。

僕には印がついている

ひなの考えた因果応報は、父親を殺された仕返し。

小夜子の考えた因果応報は、レモネードをごちそうしたこと。

ではなくて、

ひなが考えた因果応報は、レモネードをごちそうしてもらったこと。

小夜子が考えた因果応報は、父親を殺された仕返しを息子に。

ふたりの因果応報のズレが見どころでした。

星子空也が買ってきた古本の国語辞典にはラインマーカーで印がつけられていました。
「嫉妬」「真剣」「心酔」「浸水」の項目に印がつけられた国語辞典は、神楽が使っていた国語辞典かもしれないという、伏線?

 登場人物

・星子 光(ほしこ ひかる)

漢字が好き。国語が好き。7歳。小学二年生。ただいま四字熟語にハマっている。

・門田 ひな

中学校で国語の先生をしている。
星子光に最年少で漢字検定1級に合格することを進める。

・蒼くん(あおい)

味噌屋に誘拐される。塾に通っている。

・星子 空也

あいかわらず。空気が読めない人。
自動販売機でジュースを買うときに「『これだ!』と狙いを定めてボタンを押したのに、隣のボタンを押してしまうことがよくある」というポンコツ話を披露する。

・星子 小夜子

あいかわらず。しっかりした人。
門田ひなから「因果応報アタック」を返される。

「耳を塞いで口をつぐむ」の8年後ぐらいの話です。

小学二年生の光という少年が出てきます。

光は漢字が好きで、難しい漢字を覚えるのが得意です。ちなみに「憂鬱ゆううつ」も覚えています。

光は少し変わった子供で、病院でカウンセリングを受けたことがありました。人と違うことを父親に相談したら、父親は「人と違うことは良いことで、目印がついていると思えばいい」「目印があると人に見つけてもらえるから得だぞ。お母さんにも目印がついている」と言いました。

ここで「目印=義眼」「お母さん=小夜子」とわかります。

「光くんは、たぶん星子さん宅のご子息よね」という香りはプンプンしておりましたが、個人的にヒントは出し惜しみしてほしかったです。もしくはどんでん返し。

このときに星子空也が独り言で「目印か。残酷だな」と言いますが、「残酷だな」の意味がいまだにわかりません。何度か読み返しましたが謎のままです。

ある日、光が学校から自宅へ帰ってくると、星子家の部屋番号である「405号室の人って知っている」とエントランスで女の人に声をかけられます。

この女性は門田ひなで、今は中学校で国語の先生をしていると言いました。

二人は「四字熟語」の話しで盛り上がり、話の中には「阿鼻叫喚あびきょうかん」だとか「因果応報いんがおうほう」が出てきました。

話しの流れで出てきた「因果応報」でしたが、ひなが光のノートに「因果応報」と書いたことが、あとあと効いてきます。そんな出来事が起こってしまいます。

光はひなと「さようなら」と拍子抜けするくらい簡単にお別れしましたが、その日の夜、光が住んでいる県で小学1年生が行方不明というニュースがテレビから流れます。

小夜子は「絶対に知らない人についていったらダメ。漢字ばかりに気を取られていると、車に連れ込まれることがある」と光に注意をうながしました。このときに光は、ひなと会って話したことは言いませんでした。

それからしばらくして、光はひなを見かけました。

ひなを見ながら歩く光に近づくトラックがいて、トラックの運転手は光に「交番まで案内して」と言いました。ですが、ひなが光を見つけてちょうど光に手を振ったところだったのでトラックには乗りませんでした。

トラックの運転手は誘拐犯で、光の友達の蒼くんが誘拐されます。この時すでに蒼くんは誘拐されていてトラックの荷台にいたのかどうかはわかりません。

結果的に、ひなは誘拐犯から光を救ったことになりました。その後、ひなは光にレモネードを「因果応報」します。このときのひなは、良い因果応報をしようとしていたのか、悪い因果応報をしようとしていたのかはわかりません。

そのころ、蒼くんの両親と、空也と小夜子は警察にいました。蒼くんと光の行方がわからなかったからです。

光の机のノートには、光の字ではない字で書かれた「因果応報」が残っており、これがまた小夜子の心にチクチク刺さりまくりました。

最後に、「因果応報」の意味が、良いことも悪いことも自分に返ってることだとわかります。

この章で星子空也が息子の光に言った、「人と違うことは良いことだ」「人と違うことは目印がついていると思えばいい」「目印がついていると誰かに見つけてもらいやすいという特別だ」という言葉は、名言ですね。

いまえださく
いまえださく

すこしだけ、星子空也を見直しました。

奇跡の二人

女の子は誰かを考えながら読み進める話です。

チラッと幸せそうな雫とハルが登場します。

門田ゆかりが、なぜ必死こいて門田京一郎を渓谷に運んだのかがわかります。

流の母親は神楽かもしれません。

 登場人物

・一路 流(いちろ りゅう)

高校の美術部にいて、高校生ながら県の美術展で入選するほど絵を描くのが上手い。ちなみに入選したときの絵のタイトルは「瓶」。
高校卒業後は美大生になり、美大卒業後は画家として活動する。
絵は上手なのに、字が下手くそ。
画家だった流の父親は流が中学生のときに家から出て行った。一路は父親の性。

・一路流の彼女

どれくらい流のことが好きかと表現したときの言葉が「愛の虜(とりこ)」という、なかなか情熱的な彼女です。
そんな情熱的な彼女は、一路流に近づくきっかけに「自画像を描いてほしい」と依頼しました。
高校二年生のときに初めて自画像を描いてもらい、大学三年生のときに二度目の自画像を描いてもらいました。
そのあと左手を骨折した一路流の石膏に似顔絵を描いてもらい、三度目に彼女を描いた絵は彼女が悲しみの中、「愛している」の思いとともに届きました。

・茜ちゃん

一路流の彼女の親友。サッカー部の矢代君と付き合って半年ぐらいで別れた。その後「彼氏ほしい」を連発して高校を卒業する。

・流の母親

神経質そうで気難しそうな女性。

女の子が絵描きに恋をする話です。

女の子は高校二年生のときに絵描きに恋をして、大学へと進み、社会人になってからも絵描きと奇跡のような恋を続けました。

絵描きの名前は、一路流。

流と彼女が付き合い始めて7年目の春、流が死にます。

母親と二人で海に入って亡くなりました。心中でした。

流の父親が家を出て行ったあと、流の母親は精神を病んでしまい「死にたい」と口癖のように繰り返していました。

ですが、流がケガをして母親のそばにいるときだけ、母親は「死にたい」と言いませんでした。なぜなら、流の世話をし、息子の役に立っていることが母親としての活力となり、生きる糧となっていたからです。

高校生のころにじん帯を損傷して、母親のこの変化に気がついた流は、故意にケガを繰り返すようになりました。

母親は流が有名になることを望んではいませんでした。なぜなら、流が脚光を浴びるということは、流が一人で十分に生きていけることを意味するからです。

画家としての成功は母を苦しめる……。母親の気持ちを変えることができないのなら、寄り添っていくしかない。流が選んだ道は、母親と一緒に死ぬという道でした。

流が死んだあと、彼女に絵が届きます。

彼女を描いた三度目の絵に添えられていた手紙には「愛している」と下手くそな字でつづられていました。

「愛している」は、親友の茜ちゃんが「一路くんは死んでも口にしないね」と断言した言葉です。

三枚の絵の題名はすべて「ひな」です。

ひなは、今は使っていない父親の部屋に絵を飾りました。

というのがこの章のあらすじで、最後に彼女が門田ひなとわかるという粋な終わり方です。

また、一路流がじん帯を損傷して病院へ行ったときに会った男性はハル(岩波春陽)です。流とハルの会話の中で、12年間眠り続けていた雫が目覚めて2年経ったこと。もうすぐ二人は結婚することを話したチラ見せも良かったです。

はっきりとは書かれていませんが、一路流の母親は神楽だと思いました。一路流の家は裕福だし、家にアトリエのようなものもありますから。シラセをにおわせ・・・・なかったのは、流の母親が一撃で神楽だとわからない乙な計らいだと思いました。

物語の最後で門田ひながいろいろなことを思い出し、伏線を回収してくれます。

門田京一郎がいなくなった日は、門田ひなの誕生日だった。「こんな日ぐらい」と門田ゆかりが門田京一郎の職場へ迎えに行き、日付が変わる頃に門田ゆかりは一人で家に帰ってきた。

そして、門田ゆかりは「お父さんなんかいなくてもいいよ」と言った。

門田ひなが「私の誕生日が父の命日になるところだった」と門田ゆかりに言ったら、「そんなことは、お母さんが絶対に許さない」と答えた。

「お母さんの力で何とかなることじゃないでしょ」と言うと、門田ゆかりは「ひなの将来に翳り(かげり)をつくるなんて許せない。すべてのことに目をつむったとしても、それだけは絶対にダメ」と答えた。

ここを読むと、門田京一郎は虫の息でとどめを刺したのは、妻の門田ゆかりだと思うんですけどね。

さいごに

画家と先生が不幸になりました。

画家と先生は、流とひなです。

正直、ひなちゃんはかわいそうだと思いました。

何年も連れ添った彼氏は何の相談もなく勝手に死ぬし、父親は殺されてしまうし、母親は父親の死体遺棄犯だし、ベビーシッターに爆弾を爆発させられるし、知り合いの爆弾犯は空気の読めないポンコツだし。

空也が作った爆弾を爆弾と知りながら幼いひなちゃんに起爆させた小夜子は子供もできて幸せそう……なのはちょっとダメじゃないか、と思います。

爆弾を作って仕掛けた空也も幸せそう……なのは100万歩譲ってギリギリセーフでしょうか。被害者の小夜子を一生大事にしそうなので。
いや、でもなぁ、被害者が小夜子だけだったのは結果論だから空也が幸せなのもちょっとダメですね。

12年かかりましたが、雫が入院することによって、ハルが「シラセ中毒」から抜け出すことができて、雫とハルも幸せそう……なのは「おめでとうございます!」と言いたいです。

星子光をプチ人質に門田ひながはなった「因果応報アタック」でドキッとした小夜子は、やはり門田京一郎を殺したのかもしれません。
ただそれでも、門田京一郎が死んでいることを確認せずに小夜子が殺したと勘違いしているだけかもしれませんよね。なぜなら、小夜子が車で走り去ったあと、隕石公園の穴の中で門田京一郎が死んでいたと言っているのが、門田ゆかりの証言だけだから。

門田ゆかりは、「この日にだけは門田京一郎に死んでほしくなかった」と言っているので、門田京一郎に息があれば救急搬送したのかもしれません。
ですが、門田ゆかりは、夫の門田京一郎に少なからず恨みがあります。虫の息の門田京一郎を目の前にしたときの門田ゆかりの気持ちを考えると、門田京一郎にとどめを刺したのは門田ゆかりの可能性もあると思います。

「どんだけ恨まれてるんだよ、門田京一郎」と言いたくなりますが、小夜子と何年かして再会し、また以前のように会うようになってから、門田京一郎は小夜子に「義眼になったから僕しかいないだろ」とか言ったアホなので、そういった行動や言動をする人物は恨まれて当然といえば当然かなと思います。

「爆弾犯と殺人犯の物語」は、「これは誰の話?」というのを想像しながら読むのが楽しかったです。ただ、光が空也と小夜子の子供だったところとか、どんでん返しが少なくて、「あぁ、やっぱりね」と言う人物に行き着くのがちょっと残念でした。

あとは、小夜子が爆発に巻き込まれた日と、雫が車にはねられた日の飛行機事故に何らかのカラミが欲しかったような気がします。

わたしは「飛行機事故はいつ絡んでくるんだろう」と待ちかねていましたが、最後まで何もなかったのは残念でした。

伏線を回収するのに何回もページを行ったり来たりできるのはとても楽しかったです。

楽しみは一読では終わらない。という、「爆弾犯と殺人犯の物語」でした。

面白かったので、みなさんもぜひ読んでみてください。

いまえださく
いまえださく

最後までお読みいただき、ありがとうございました。